私羽藤桂は今、人気のない道を歩いていた。月明かりは厚い雲に遮られ、ここまで届かない。 数メートルごとに立てられた外灯の頼りない明かりだけを頼りに進む。 学校からの帰り道。しかしその道の先はアパートではなかった。 肌寒い風が横を通り過ぎた。季節はもう秋。あの夏、経観塚に行ってからもう二月が経っていた。 あの夏私は彼女と出会い、そして彼女と別れた。 夜の薄暗い闇色に、ふと彼女を思い出した。 そうやってぼんやりとしていたら、目前の何かに気が付いた。 この闇の中ではよく見えないが、男の人のようだった。 顔は俯いて、表情は窺いしれない。 もしかしたら具合が悪いのかもしれない。 「あの、大丈夫ですか?」 声をかけてみる。 その人が顔を上げる。その目は――暗い闇に抗うように赤かった。 驚きに身を硬くし、思わず後ずさる。 鬼だった。 お母さんにもらったお守りは先日力を込めてもらったばかりで、青々としている。 だから今鬼狙われているのは単純に運が悪かったんだろう。 …夜に一人で歩いてなんかいた自分も悪いんだろうけど。 思えば、こんな風にわざわざ人気の少ない道を歩いていたのも、何かを期待してのことだった気がする。 もし鬼に襲われれば、この闇を切り裂くようにあの人が駆け付けてくれるのではないかと―― 呑気にそんなことを考えていたら、鬼が間合いを詰める動きが一瞬見えた。 反応できない。赤い二つの光が迫ってくる。 その瞬間、影が現れた。 それははっきりと姿を確認する間もなく私の横を駆け抜け鬼に迫る。 そして一閃。 何かを縦に振り下ろす動き。それは普段お目にかかることもない真剣で、一瞬外灯の光を反射して持ち主の影に隠れる。 鬼がいた場所で、何かが空に散る様が見えた。 私は立ち尽くしていた。襲われるという恐怖はあったが、こうなることもわかっていたような気がする。 私を助けてくれたその人はゆっくりと振り返った。 「お怪我はありませんか」 熱も無く、ただ義務的にその見知らぬ男の人が喋った。 「はい、ありがとうございます…」 少し気を落として答える。 これもわかっていたことだった。私を千羽党が守ってくれるということも。そしてあの人が来ないということも。 当然の報いだ、彼女を裏切ったのほ私なのだから。 部屋の中から見える景色。ケイ君と対峙するサクヤさんに、ノゾミちゃんと力をぶつけあっているユメイさん。 …そして白い戦装束を身に纏い、それと対照的な黒く艶やかな髪をなびかせながら刀を振るう烏月さん。 きっとその姿はとても美しく、凛々しさを伴っていたことだろう。 しかしその時私にはそれを感じる余裕は無かった。 何故かといえば、恐怖に震えていたから。 また鬼に襲われるのが怖かった。 烏月さんは私を守ってくれると約束してくれた。そして私も信じると約束した。 しかし私は、最後の最後で恐怖に屈してしまった。 鬼がそこまで迫ってきて、逃げ出してしまいたくなった。 その辺りからはよくわからない。 いつのまにか烏月さんも鬼と戦っていて、気付いたらいつものアパートに寝かされていた。 あの後どうなったのかはわからなかった。 経観塚から帰ってほどなくして、サクヤさんが烏月さんを連れてうちにやってきた。 お守りに力を注がせる為だとサクヤさんは言う。 寂しい別れをしてしまったわけだし、初めは再会を喜んだ。 自身への負い目もあり、控え目に挨拶をした。それにきれいに応える烏月さん。 以前と同じく綺麗な動作――しかし私を見る瞳だけが違って見えた。 それはいつもの温かみを含めたものではなく、初めて経観塚で 出会った時のような、僅かな距離を置くような瞳。 その時私は自分のしたことを改めて理解した。 ――私は烏月さんを裏切ってしまったんだ―― 「それでは失礼しますが、お気を付けて」 鬼切役の人が言った。 はい、ありがとうございましたと返事をすると、その姿は闇に消えていった。 秋の風が冷たく吹く。 私はその場で立ち尽くしたまま思った。 きっともう烏月さんとは会えない。 私があの時裏切りを以って縁を切ってしまったのだ。 悪いのは私。会えなくても仕方無いと思う。 だけど、この思いは持ち続けてもいいよね。 大好きでした、烏月さん。 さよなら、私の大好きな人―― 了
後書き 烏月ルートの桂が最後に逃げ出してしまうEDの続きのつもりで書きました。 最近プレイしてないので話の流れが合ってるかどうか自信ありません(汗) ラブラブな話が書きたかったのに暗めになって自分でもがっかりです。 頑張って書いたのですが、一人称って書きにくいですね(汗) というか上手く書けてないですね、文章が固い固い。 まぁ言い訳はこの辺にしまして。 次はこれの烏月視点を書きたいななんて思ってます。 では、ここまで読んでくださりありがとうございました 2005.6.4

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